先進医療「膜構造を用いた生理学的精子選択術」
SwimCount™ Harvester

SwimCount™ Harvester
マイクロ流体⼒学を⽤いた精⼦調整⽤チャンバー

遠心を用いない、精子に優しい精子選別法

流体力学を駆使した膜が、前進運動精子を選別する?

基本的な体外受精のプロセスでは、男性側から得られる配偶子、すなわち精子は精液中の不要な細胞や雑菌、死んだ精子などを分離するために、密度勾配遠心法と呼ばれる方法や、スイムアップ法という方法を組み合わせた上で良好精子のみを抽出します。

密度勾配遠心法(二層)

スイムアップ法

遠心分離は、遠心機を用いて実施しますが、300G以上の高い物理的な力をもって分離するため、精子にとってもストレスになりえます。精子中には、子に受け継ぐためのDNAが含まれますが、密度勾配遠心法によりDNAの損傷であるDNA断片化(DNA Fragmentation)が発生するケースがあり、そういった精子を用いて体外受精を行った場合、受精した胚の発育不良、着床・妊娠率の低下や流産率の増加などが報告されています*1, *2

DNA断片化:精子のDNAが切断されることを指します。
これは酸化ストレス、加齢、感染症、環境要因などによって引き起こされます。
DNA断片化が高い精子は、自然妊娠や体外受精(IVF)の成功率が低下し、流産のリスクも増加することがあります

そこで、より精子にストレスのかからない抽出方法として注目されたのがマイクロ流体法です。
自然妊娠では、女性の膣内に射出された精子が、子宮、卵管を通って卵巣中の卵子に受精します。この卵管内の精子の輸送をマイクロ流体力学によって再現する技術が開発されました。

マイクロ流体力学(microfluidics)は、極微小なデバイス内で液体の流れを制御・操作する技術のことを言います。この技術は、医療の分野だけではなくバイオテクノロジー、化学工業など、さまざまな分野で使われています。

SwimCount™Harvesterは二人のデンマーク人科学者から

マイクロ流体力学を用いて、妊娠に繋がる良好な前進運動精子を分離できるデバイスを開発したのは、デンマーク人のJacob MøllenbachとSteen Laursenです。彼らは20年以上にわたり、デンマークで高度生殖医療の分野で豊富な経験を積んできました。Steenはデンマーク国立病院Rigshospitaletで研究者として活動し、JacobはIVF業界で研究開発マネージャーとして活躍していました。

2011年に、彼らは膜技術を用いた精子分離デバイスの製品開発を企画し、MotilityCount ApSを設立しました。この膜を用いた精子分離の技術は、2014年に日本を含む国際特許として取得されています。

2015年には、ホームテストキット「SwimCount™ Sperm Quality Test」を発売し、日本を含む欧州や北米で販売されています。その後、同技術を高度生殖医療に応用した「SwimCount™ Harvester」を開発し、2024年には世界に先駆けて日本での発売を開始しています。

マイクロ流体力学の臨床上の有効性1

この技術を使うと、以前妊娠の可能性が高まるとされる前進運動精子をDNA断片化の少ない状態で抽出できることが学会や論文等で複数の報告がなされています。スペインを中心に世界に90施設以上の拠点を持つIVF RMAのDr.Fernando Meseguerらは、2024年にMotility count社のSwimCount™ Harvesterは従来方法と比べて、より多く前進運動精子を回収ができ、回収された精子は、運動性や形態がよくDNA断片化の損傷が少なかったことを報告しています*3。

密度勾配遠心法(DGC法)とSwimCount™ Harvesterで回収した精子の比較

検体数 SwimCount™ Harvester 密度勾配遠心法(DGC) P-Value
精子濃度(百万/mL) 100 8.05 7.15 P<0.001
運動性精子濃度(%) 100 80.00 75.00 P<0.001
総前進運動精子数(百万) 100 4.71 2.69 P<0.001
精子生存率(%) 78 89.00 80.00 P=0.009
正常形態率(%) 88 4.00 3.00 P<0.001
クロマチン構造安定性(%) 86 79.00 76.00 P<0.001
DNA断片化指数(%) 90 4.14 12.14 P=0.583

#P-Valueとは統計上の有意差を示す数値、数字が小さいほど有意差が大きく、一般的には0.05より低い場合、有意差があると言われています。

マイクロ流体力学の臨床上の有効性2

2021年、米国ニューヨークのコロンビア大学に所属するAlex Robles, M.D.らは、マイクロ流体力学を応用したデバイスを使用して精子を選別し、顕微授精(ICSI)によって受精した胚について研究を行いました。その結果、従来の密度勾配法と比較して、より多くの胚が移植可能な胚盤胞まで成長し、染色体異数性のない正倍数性胚の割合が高いことが報告されました*4。正倍数性の染色体を持つ胚盤胞は、妊娠や出生に結びつきやすい胚と考えられており、この技術が有望である可能性が示唆されています。

密度勾配遠心法(DGC法)とマイクロ流体力学法で回収した精子の比較

マイクロ流体力学法 密度勾配遠心法(DGC) 有意差
サイクルの合計数 86 86 なし
回収された卵の平均数 12.6 12.2 なし
MII卵子の平均数 9.8(77.4%) 9(74%) なし
2PN胚の平均数 7.3(74.8%) 6.8(75.5%) なし
胚盤胞の平均数 3(40.2%) 2(29.2%) P=0.014
正倍数性胚の合計数 103(43%) 55(33%) P=0.016

#P-Valueとは統計上の有意差を示す数値、数字が小さいほど有意差が大きく、一般的には0.05より低い場合、有意差があると言われています。

技術は先進医療へ

マイクロ流体力学を用いて精子を選別するという方法は、現在新しい治療法や診断法の安全性や有効性を確認するために実施される先進医療という技術に登録されています
(注:マイクロ流体技術を用いた精子選別法は、膜構造を用いた生理学的精子選択術(jRCT登録ID番号 jRCT1060220105)として、不妊に悩む患者様の選択肢のひとつとして治療に用いることが可能です。
(注:本技術の申請及び承認は他社製品を用いてなされています。同様の技術で精子を選別できるSwimCount™ Harvesterも同じ先進医療技術で使用可能です。
(注:先進医療には、有効な可能性がある一方で、まだ臨床的な有効性が証明されていない治療法や診断法が含まれています。ご紹介した臨床的有効性が必ずしも正しいとは限らないことを念頭においていただけるようお願いいたします。

SwimCount™ Harvester

SwimCount™ Harvesterは、マイクロ流体力学を用いた前進運動精子を回収するためのデバイスです。 全国の高度生殖医療を行っているクリニックで使用されています。 マイクロ流体技術を用いた精子選別法は、膜構造を用いた生理学的精子選択術で使用することが可能です。

*1:M. Muratori et al, Sperm selection with density gradient centrifugation and swim up: effect on DNA fragmentation in viable spermatozoa (2019))。 Scientific Reports volume 9, Article number: 7492
*2:J.Tan et al, Association between sperm DNA fragmentation and idiopathic recurrent pregnancy loss: a systematic review and meta-analysis Reprod Biomed Online. 2019 Jun;38(6):951-960.
*3:Fernando Meseguer et al, Can Microfluidics Improve Sperm Quality? A Prospective Functional Study, Biomedicines 2024, 12, 1131.
*4:Alex Robles, M.D. et al, DOES MICROFLUIDIC SPERM SORTING IMPROVE EMBRYO DEVELOPMENT AND EUPLOIDY RATES IN PATIENTS UNDERGOING ICSI? Fertility & Sterility Volume 116, Issue 3, Supplement e141September 2021